看護師が退職や転職を考える際、現在の職場や転職先から退職金はもらえるの?と気になる方も多いでしょう。
この記事では、看護師の退職金制度や、年次別・職場別の退職金相場、退職金の算出方法について解説します。
転職を考える際に病院や施設の退職金の情報も踏まえ、転職先を選ぶ際の注意点について分かりやすく解説します。
看護師の退職金制度について
退職金とは
退職金とは、会社を退職する際にもらえるお金のことを言います。
退職金そのものについては、法律の定めがなく、会社の就業規定に委ねられています。
つまり看護師として働いたからといって、その病院や施設に退職金の制度がなければ、退職時に請求することはできないのです。
退職一時金制度
退職時に受け取れる制度です。
勤続年数により規定されている場合には、定年退職だけでなく、中途退職でも支払われる可能性があります。
自己都合・会社都合でそれぞれ条件が変わる場合もあります。
企業年金制度
退職時のみに支払われるのではなく、規定年齢に達した後に年金として受け取ることができます。
退職一時金と併用している企業も多くみられます。
前払い制度
退職金という形ではなく、予めきめられた金額が給与や賞与に分散して支払われます。
退職時の給付はないけれど、基本給が他に比べて高く設定されているという場合には、この制度が適応されている可能性があります。
勤続年数による退職金の相場
看護師の退職金は、勤続年数などによって退職金の金額も異なり、一般的には勤続年数が長いほど退職金の金額も大きくなります。
勤続年数別に見ていきましょう。
勤続3年目の看護師の場合
3年目で退職をした場合、退職金は30万円前後、あるいはそれ以下が相場です。
3年以内に退職した場合、退職金はまったくもらえない場合もあるようです。
退職金の計算方法は各病院や施設によってことなりますが、基本給をベースにしていることが多く、そこに在職中の貢献度や勤続年数などによる評価を加味し決められます。
あまり大きな金額は受け取れない年次と考え、退職金は諦めるか、もらえたらラッキーくらいに考えておくのがよいでしょう。
勤続5年目の看護師の場合
勤続4年以上であれば、30~50万円程度受け取れることが多いようです。
退職金の受け取りを考えるのであれば、4年目以上を目標にして勤めるのがおすすめです。
退職後に生活費にあてられるまとまったお金があれば、次の転職先を探す、仕事から少し離れ休息を取る、旅行に行くなど生活に余裕ができます。
さらに、勤続5年以上になれば、金額が50~100円程度まで上がります。
100万円といえば3ヶ月分の生活にあたります。転職活動に集中でき、ゆっくりと次の職場を吟味することもできます。
勤続10年目の看護師の場合
勤続10年目であれば、250~300万円ほどになります。
看護師の10年目といえば、30代の前半です。結婚や出産などライフステージが変化し、ライフワークバランスを見直したり考え直したりする時期でもあります。
ステップアップのために勉強したい、認定や専門看護師を取得するために進学したいなどという意欲を持つ人もいると思います。
そんな時にまとまった退職金がもらえれば、学資資金にしたり家族や生活に役立てたりと様々な選択ができそうです。
勤続20年目の看護師の場合
勤続20年働いた場合は450~600万円程度が相場とされています。
看護師として20年くらい勤めると、大体40~50歳くらいになっている頃です。
管理職になっている場合や、子供の養育費や両親の介護費が必要になっている年代でもあると思います。
役職別の退職金については、主任クラスでは退職金にあまり影響が出ないようですが、管理職である看護師長や看護部長となると、やはり退職金に大きな差が出てくるようです。
ただ原則としては、基本給や勤続年数がポイントであるので、昇格に従い基本給が上がる病院であれば、最終的に退職金に反映されます。
基本給や勤続年数に加え、職場への功績を加算するところもあり、役職が上がるほど功績倍率も高くなりその分退職金も高額になります。
さらに特に注意したいが、「中途退職」=「自己都合」となる場合です。
病院や施設によっては定年前に退職すると自己都合として扱われ、正規退職金の7割程度に減額されることもあります。
こうした規定についても就業規則に明記されているため、しっかりと確認することが大切です。
職場別退職金の平均相場
看護師の退職金は職場の制度により、かなりの違いがあります。
退職金制度の整備状況により、そこで働く生涯収入金額に大きな差が生まれます。
国立病院(国立病院機構)
国立病院の退職金は、国立病院系の病院の中でもかなり手厚いとみられます。
看護師は公務員ではありませんが、準公務員とみなされ、退職金の規定は「公務員退職手当法」に従って支給されます。
例えば、勤続35年以上の看護師(非管理職)が定年退職した場合、およそ1,800万円の退職金が支給されるようです。
公立病院
私立や県立病院に勤める看護師は、自治体の職員として地方公務員の扱いとなります。
退職金については「地方公務員法」に従って支払われます。
支給額は自治体によって差はありますが、規定にのっとり高水準の退職金が支払われます。
例えば都道府県立の病院の場合には、定年退職時の相場は約1400万円です。
もっとも高いのは政令指定都市の病院で、平均額は1,900万円となっています。
市町村立は約1,800万円で、国立病院と変わらないレベルの金額となっています。
大手総合病院・企業資本の病院
大手総合病院や企業が資本となっている病院、私立大学病院などの退職金は、おおむね高水準といえるようです。
病院によっては2,000万円クラスになることもあり、国公立系の病院よりも高額な退職金がもらえる可能性があります。
その一方で、1,000万円以下という病院も多いため、退職金制度について確認するとともに、病院の経営状況についても見ておく必要がありそうです。
こうした病院では、退職金を低く抑える一方で、基本給が高いということもあります。
支払いを分散しているだけで、生涯年収で見れば退職金込みの収入が国公立系病院と同等ということも考えられるため、全体的に比較してみることが重要です。
小規模な病院・クリニック
冒頭にあったように、退職金は法律で決められた雇用元の義務というものではありません。
就業規則に退職時の給付の記載がされていない場合には、退職金にあたるものがないと考えて良いでしょう。
一般企業でも地方の小規模な事業所では、退職金制度がないことが珍しくありません。
雇用側として従業員に対してどのような姿勢でいるのか、退職金制度の有無もひとつの目安となりそうです。
介護関連施設
看護師の勤務先として需要が拡大しているのが、介護関連施設です。
規模が様々なため、クリニックなどと同様に入職時には確認が必要です。
大手が運営する高齢者介護施設や有料老人ホームなどでは、勤続年数に従い、病院と同等の退職金が支給されるとことも増えてきています。
ただこうした施設に関しては、母体となっている企業の経営状態に左右されることが多いので、資本元などを確認しておくと良いでしょう。
事業所の規模や勤続年数にもよりますが、定年まで勤めあげると多いところでは1,000万円以上というケースもあるようです。
公務員看護師の退職金
収入が安定しており福利厚生が充実している公務員は、社会的にも信頼度が高い職業ですが、退職金の面でもしっかりとしています。
公務員看護師の退職金について見ていきましょう。
公務員看護師の種類
公務員もしくはそれに準ずる身分となる看護師の働く場所は、以下のような施設です。
- 国公立病院
- 保健所・保健センター
- 自治体運営の医療関連施設
- 公立の保育園・幼稚園
- 公立の看護専門学校
- 厚生労働省(看護系技官)・関連機関
- 自衛隊
国家公務員と地方公務員の退職金
国家公務員の退職金は、国家公務員法で規定されおり、計算方法は以下の通りです。
- 退職手当額=退職日の俸給月給×退職理由別・勤続年数別支給率
地方公務員の退職手当については、地方公務員法で「国家公務員の制度に準ずること」とされており、計算方法は以下の通りです。
- 退職手当額=基本額+調整額
- 基本額=退職日給料月給×退職理由別・勤続年数別支給額
公務員の場合は、勤続1年目の場合でも退職金の支給対象となります。
勤続年数と退職理由による支給率の割合は以下の通りです。
勤続年数 | 自己都合退職 | 定年推奨退職 |
1年 | 0.6 | 1.0 |
5年 | 3.0 | 5.0 |
10年 | 6.0 | 10.0 |
15年 | 12.4 | 19.375 |
20年 | 23.5 | 30.55 |
24年 | 31.5 | 38.85 |
25年 | 33.5 | 41.34 |
30年 | 41.5 | 50.7 |
35年 | 47.5 | 59.28 |
45年 | 59.28 | 59.28 |
国家公務員が定年退職をした場合の平均退職手当は約2,108万5,000円です。
地方公務員の場合は、各自治体によっても差はありますが、定年退職した場合の全国平均では約2,201万3000円となっています。
一般的なイメージでは国家公務員として就職するほうが難しいように感じますが、退職金を見ると地方公務員の方がやや上回っています。
看護系技官などの国家公務員は就職が難しいように感じますが、地方公務員として働ける場所は意外と身近にあります。
転職を検討する際必ず退職金を確保したいと考えているのであれば、規定がしっかりとしている公務員関連の職場の情報を集めてみるとよいでしょう。
看護師の退職金の計算とモデル
一般の企業や看護師が勤める施設の多くは、公務員法をモデルに退職金制度を定めています。
ただ退職金の計算方法の仕組みについては、特に決められていないためそれぞれ独自の方式を採用しています。
主なものを紹介していきましょう。
基本給をベースとした方法
- 退職金支給額=基本給×勤続年数
もっともシンプルな算出方法としては、退職時の基本給に勤続年数をかける方法があります。
分かりやすい方法ですが、月額支給される給与額がベースではないため、夜勤手当など加算される分を差し引いて計算する必要があります。
固定金をベースとした方法
- 退職金支給額=固定金×勤続年数
基本給ではなく、病院や施設側があらかじめ設定した「固定金」に勤続年数をかける方法です。
勤務を始めてから退職金の予測額を計算できますが、年次に従って基本給が上がっても退職金に反映されないというデメリットがあります。
勤続年数をベースにした方法
病院や施設が勤続年数ごとに退職金を定めているという方法です。
例えば、勤続年数5年以上で100万円、10年以上で200万円、20年以上で300万円といった定め方になります。
就業規則を見ればいつどのくらい受け取れるかが分かりますが、途中で辞めた場合もらえる金額が曖昧になる可能性があり、事前に確認しておくと良いでしょう。
基本給と功績倍率をベースにする方法
基本給と勤続年数に独自に設定した「功績倍率」をかける方法です。
例えば基本給が20万円で、10年間勤務した場合、200万円に功績倍率をかけた金額が退職金となります。
この功績倍率の考え方は、職場への貢献度を病院側で評価するというものです。
1を基準にした指数となるため、功績倍率が1を上回ればその分退職金の金額に加算があります。
一方評価が悪く1を下回ってしまうと、退職金が想定される金額以下となってしまう可能性もあります。
評価基準が主観的なりがちになる可能性があり、誰がどのように評価しているのか、功績倍率の決め方が可視化されているのか確認するとよいでしょう。
退職金がなくなる日も近い?
平成30年度に行われた厚生労働省の調査によると、医療・福祉業界で退職金制度を導入している事業者数は全体の87.3%でした。
全産業の導入率は77.8%であったため、医療・福祉業界は退職金制度がある事業者が多いと言えるでしょう。
一方、東京都労働局の調査によると、退職金を支払う中小企業は2012年では77.7%であったのに対し、2020年では65.9%に低下しています。
コロナ禍により、経営が悪化している病院や施設もみられており、医療福祉業界も今より退職金が支払われない病院や施設が増える可能性があります。
退職金を当てにできない日も来るかもしれませんが、退職金制度のある病院や施設を上手に見つけていきましょう。
まとめ
看護師の退職金制度の規定は病院や施設ごとに異なります。
転職を考える際に、一から施設ごとの退職金制度について自分で調べるのは大変で時間を要するため、まずは転職エージェントに相談することをおすすめします。
転職エージェントは、公務員関連の病院や他施設などの様々な情報を持っているため、自分に合った病院や施設を紹介してもらうことができるでしょう。