転職先を選ぶ際、一番気になるのが「給与」です。
しかし、給与だけで仕事を選ぶことにはリスクもあります。
私たちは、人生の中でも多くの時間と力を「働くこと」に使います。
お金に囚われすぎることなく、本当に自分の幸せにつながる働き方を選択していくためのポイントについて紹介します。
年収だけで会社を選ぶことのリスク
年収が高い仕事には大きく二つあります。
一つ目は高度なスキルや経験といった「高い能力が求められる仕事」です。
そしてもう一つは、離職率が高かったり、労働環境が過酷といった「人が集まりづらい仕事」です。
「高い能力が求められる仕事」では、採用されるまでのハードルが高かったり、採用後もプロフェッショナルとしての高い能力発揮を継続して求められる傾向があります。
「人が集まりづらい仕事」については、採用されるまでのハードルは低くなりますが、いざ勤務を初めて見ると、労働時間や業務内容が身体的、精神的に負担が大きいケースも少なくありません。
まず前提として、高い年収には、それなりの理由があるのだということを知っておくことが大切です。
育児と仕事を両立できる働き方には2億円の価値がある
次に「年収」について考えてみましょう。
内閣府の調査(「国民生活白書」(平成17年))によると、出産後も就業を継続した場合と出産後にパートとして復帰して働き続けた場合の生涯賃金の差額は2億円に及び、その逸失率は80%以上になることが分かっています。
(出所:男女共同参画白書)
現在も、夫はフルタイムで働き、妻は扶養内で働くという働き方は一般的です。
しかし、この働き方は世帯年収で考えると2億円を手放した働き方であるということも知ったうえで働き方を選択することが大切でしょう。
そして、妻もフルタイムで働き、夫婦共働きを実現するために重要になってくるのが、夫の働き方です。
夫が長時間労働で育児や家事への協力が難しい場合は、夫婦ともフルタイムでの共働きは現実的ではありません。
世帯年収を上げるということを考えれば、高い年収を得られる会社で働く以外にも、夫婦共働きで働く、そのために労働時間や育児・家事の協力体制を考えるという選択肢は現実的な選択肢として考えられるでしょう。
独身の人にとっても、継続して働き続けられることは重要です。育児だけでなく、病気や親の介護といった理由で時間制約をもって働かなければなくなるケースはあります。
そのようなときにも安心して両立できる仕事を手に入れることは幸せな働き方を考える上でとても重要です。
「手取り」だけを考えれば「業務委託」が一番
次に「手取り」について考えてみましょう。
給与明細を見ると、社会保険料や税金が差し引かれていて、手取りの金額が少なくがっかりしたという経験をした人もいるでしょう。
もしも、「手取り」の金額だけを考えるのであれば、フリーランスとして「業務委託」で仕事をすることには大きなメリットがあります。
なぜならば、社会保険への加入の必要がなく差し引かれる金額を少なくすることができるためです。
給与が30万円の場合、健康保険・厚生年金保険の保険料は4万円以上、会社負担分も合わせると8万円以上となります。
毎月給与から、社会保険料が差し引かれることに抵抗がある方もいらっしゃると思いますが、その分、いざ病気や怪我、出産・介護といった事情で働けなくなった場合は手厚い給付を受けることができます。
また、将来の年金額も社会保険に加入しているのとしていないのでは大きく変わります。
今回、新型コロナ感染症の影響で働けなくなった場合の国の対応も、雇用されて働いている労働者に対しては、雇用調整助成金として手厚い所得保障が行われたのに対し、自営業者に対しては、一時金の支給と補助金にとどまっています。
フリーランスや自営業としての働き方に比べ、会社に務めて働くことは、社会保障の面から考えると、「いざとなったときの安心感は高い」と言えます。
「タテの関係」は最も精神的健康に悪影響
次に「働き方」について考えてみましょう。
健常者のための心理学と呼ばれ、育児や教育現場で活用されているアドラー心理学では、
「縦の人間関係は精神的な健康を損なう最も大きな要因であると考え、横の対人関係を築くことを提唱」しています。(『アドラー心理学入門』(岸見一郎))
そして、私たちにとって最も身近なタテの関係になりやすい環境が職場です。
職場での強い上下関係(タテの関係)は、精神的健康上のリスクが大きいため注意が必要です。
特に、会社で働きながら高い年収を得ようとすると、企業内での競争や権力争いに巻き込まれ、メンタル疾患やハラスメントの被害を受けるというケースも少なくありません。
では、どうすればヨコの関係を築くことができるのでしょうか?
イノベーティブで協働的な組織について研究を行っている埼玉大学大学院の宇田川元一氏は、「一か所に依存するのではなく依存先を増やす」ことが重要であると言っています。
すでにある、「タテの関係」を「ヨコの関係」に変えていくのはとても難しいですが、副業やボランティア活動など社外のコミュニティにも所属し依存先を増やすことができれば会社への依存度を下げることが可能です。
一つの会社で年収を上げようということに一生懸命になりすぎると、会社への依存度が高まり身動きを取れなくなってしまうこともあるため注意しましょう。
求人広告を見る際のポイント
ここからは、具体的に転職先を探す際のポイントとして、「求人広告」の見方について紹介します。
①年収が高い=時間単価(時給)が高いではない
まず、一番気になる「給与欄」についてです。
給与については、単純に金額を比較するだけでは実質的な給与額を比べることはできないため注意が必要です。
求人広告においては、給与額については、「◯円〜◯円」とざっくりと記載され詳細が分からなかったり、残業代が含まれた金額になっているケースもあります。
例えば、「みなし残業手当」がある企業の場合は、何時間分の残業手当がついているのか確認する必要があります。
残業代込みの場合は一見すると時給が高そうに見えますが、他の時給が低そうに見える求人であっても、残業手当を含めると「みなし残業手当を込み」の求人より時給が高いケースもあります。
比較する際は、「残業なしの場合はいくらもらえるのか?」を基準で考えると分かりやすいでしょう。
基本給の他にも手当がある企業もあるため、自分が対象になる手当も合わせて初めて実質的な給与の額を比較することができます。
みなし残業手当を導入している企業など、残業があり労働時間が長い企業であれば年収も高くなりやすいですが、労働時間あたりの給与額で考えてみると時給単価は低い企業もあります。
「生活残業」という言葉がありますが、時給の低さを長時間労働で補う場合、身体的にも精神的にも負担が高まり、また、育児や介護といった時間制約が発生した場合に両立ができないというリスクもあります。
まずは、「残業なしで所定労働時間働き、希望する給与額を満たせるか」という基準で考えると良いでしょう。
②長時間労働の有無は命にも関わること
次に注目したいのが「勤務時間」の項目です。
一日の勤務時間、土日の出勤の有無、深夜労働の有無といった勤務時間は働き方に大きな影響を与えます。
また、働き方改革の推進により、長時間労働の企業と残業が少ない企業で2極化が進んでいます。
長い期間働き、育児や介護といった場合にも両立できる職場を考えるのであれば、残業時間が少なく両立支援にも積極的な企業を選ぶことが大切です。
一方で、「短期間で集中して稼ぎたい!」という状況であれば、身体的・精神的健康を維持できる範囲内で残業をしながら働くことも選択肢の一つになるでしょう。
その場合に絶対守って欲しい注意点は、「睡眠の確保」です。
メンタルヘルス上、睡眠の確保は精神的健康を維持する上で最も重要であることが分かっています。
メンタルヘルス分野の第一人者である三島和夫氏よると、「6時間睡眠を10日続けると、24時間徹夜と同程度の認知機能になる」という驚くべき調査結果があります。
睡眠不足になると脳のエネルギーが不足し、判断能力や集中力といった脳機能も著しく低下し、その状況は「うつ病」の状態と同じような状態であると言われています。
仕事のパフォーマンスも大きく下がってしまいます。
「残業をして短期間で稼ぎたい!」という場合にも、健康を守るため、最低でも6時間、できれば7時間以上の睡眠がとれる働き方を選択しましょう。
③スキルアップにつながる仕事内容か
次に「業務内容」についてです。
業務内容も、働く幸せを考える上でとても重要です。
アドラー心理学を提唱したアドラーは、「貢献感こそが幸せである」と言っています。
職場は社会に対して貢献する場ですが、貢献することと「貢献感」を感じることは違います。
主観として、「自分は誰かの役に立っていると感じられること」が貢献感であるとアドラーは言いました。
貢献感を感じるために大切なのは、貢献できるスキルを身につけることです。
給与が高い求人の中には、離職率が高い職場で個人のスキルアップに結びづらい職場もあるため注意が必要です。
将来的にどのようなスキルを高めていきたいのか?
働くことを通して、自分自身のスキルアップにつながる業務内容であること、そして、業務を通して成長できると感じられる仕事を選ぶことが重要です。
④契約期間が短いことの精神的負担は大きい
「契約期間」も要確認事項です。
最近では、まずは非正規社員からスタートし正社登用ありという採用方法をとっている企業もたくさんあります。
これは助成金申請の影響もあるため、非正規社員スタートだからといって条件が悪い会社というわけではありません。
注意が必要なのは「有期契約で給与は高い」というケースです。
ある程度の専門性が求められ、フルタイムに近い労働時間で働くという場合、契約の更新の時期が近づくにつれ精神的不安は高まります。
さらにフルタイムで働いている場合は、転職するための自己研鑽の時間や転職活動に使う時間が取れなかったりと、身動きがとれない状態になるケースもあります。
これは想像以上のストレスとなります。
有期契約で働く場合は、必ず「余白を作っておく」ことが大切です。
有期契約で働く場合は、万が一、契約の更新がされなかったとしても対応できるよう、転職活動等の準備をするための「時間の確保」ができる働き方を選ぶようにしましょう。
失敗しない転職のポイント
ここからは、幸せな働き方を手に入れるための転職活動の進め方について紹介します。
①副業で「タテの関係」から自由になる
まず1つ目は、「副業」を前提で考えるということです。
今すぐに副業をするつもりはなかったとしても、将来的には、必要な時には副業ができる能力を身につけておくことが重要です。
先に述べたように、一社に依存した働き方には精神的健康上の大きなリスクがあります。
いざとなったときも、複数の働き方で収入を得る力を身につけていれば、働いている会社が自分に合っていないと感じたときも身動きがとれやすくなります。
現在は、急速に副業解禁の流れは進み、パソコンとインターネットがあれば副業を始められるようになりました。
収入源を一つに限定するのではなく、「複数の収入源をもつ」ことができれば、より自由度も安心感も高い働き方の実現が可能となります。
②他社でも通用するスキルを磨く
転職活動をするにおいても、副業を始めるにおいても必要になるのが「他社でも通用するスキル」です。
転職してゼロからスタートするのではなく、今の環境の中から学べるスキルは何なのかを考え、スキルアップを目指しましょう。
言い方はよくありませんが、会社をやめる前に、学べることは学びきってやめるようにしましょう。
スキルを身につけるために小さな副業を始めることもおすすめです。
今の仕事以外で関心がある分野がある場合は、クラウドソーシングサービス等を利用し、小さく副業を初めてみることも良いでしょう。
③会社員×個人事業主という選択肢もおすすめ
最後になりますが、いきなり転職というのはハードルが高く、いざ転職してはみたものの思っていた働き方とは違うというケースもあります。
幸せな働き方を選択していくために重要なのは、一つの働き方に依存しないことです。
働き方の選択肢が増えれば増えるほど安心感や自由度が高まります。
そこでおすすめな働き方は、「会社員として働きながら個人事業としての副業をする」という方法です。
会社から会社への転職では一社への依存度が変わらないため、選択肢は増えず自由度を高めることにもつながりません。
会社員として働くことのメリットとしては、いざとなったときの社会保障が手厚いことです。
自営業で働くことは、初めからうまくいくことは稀です。
まずは、会社で働きながら最低限の生活費を確保した状況であれば、副業の自営業では失敗を重ねながらスキルアップを目指すことが可能です。
いずれにしても重要なことは「一つの働き方に依存しすぎないこと」です。「働き方の選択肢を増やす」という意識を持って新しい働き方を考えていくことで、安心感と自由度の高いより幸せな働き方につながるでしょう。
まとめ
今回は、お金に囚われず本当の幸せを手に入れるための転職先の選び方について紹介しました。
働き方改革が進み、新型コロナウイルスの影響により在宅ワークが普及したこともあり、働き方の選択肢は大きく増えました。
高い年収の会社に転職して幸せになるケースもありますし、そうでないケースもあります。
重要なのは、働き方の選択肢を増やすことです。
年収の高さだけでなく、より自分の幸せにつながる働き方を選択していきましょう。