衛生管理者は企業で働く人々の労働環境の改善や、健康状態を維持・向上させることを目的とする業務を管理する資格です。
認知度はそこまで高くないかもしれませんが、れっきとした国家資格であり、取得すると転職で有利となる資格の1つでもあります。
そこで本記事では、衛生管理者の資格について紹介するとともに、衛生管理者の資格が転職に有利な理由を徹底解説します。
転職やスキルアップのために何か資格を取りたいと考えている方、衛生管理者の資格について詳しく知りたい方は参考にしてください。
衛生管理者の資格とは
衛生管理者とは、企業で働く人々の労働条件・労働環境の衛生的改善や疾病予防を担当し、企業の衛生管理全般を担う者です。
アルバイト・パートタイマーを含む常時50人以上の労働者を使用する事業所では、必ず衛生管理者を選任しなければならないと労働安全衛生法によって定められています。
衛生管理者を置かない場合の罰則規定も設けられており、選任義務違反として50万円以下の罰金が適用されるケースも存在しています。
衛生管理者の資格は、弁護士・税理士などの士業のような独立を目指すための資格ではなく、企業という組織の一員として働くための資格です。
衛生管理者の資格は国家資格であり、第1種・第2種の2種類に分類されます。
衛生管理者になるためには、必要な受験資格を満たした上で試験に合格する必要があります。
業務内容や資格の詳細について、以下に更に詳しく解説していきます。
衛生管理者の業務内容
衛生管理者は、事業所で働く人々の健康状態や安全を維持・向上させることを目指す業務を担当します。
具体的には、従業員の健康診断を把握し、必要時は産業医との面談を設定する、事業所内の健康意識を高めるためのイベントを実施するなど多方面に渡ります。
また、施設状況や作業条件をチェックして、従業員の作業環境に衛生上の問題がないか調査するのも衛生管理者の仕事です。
少なくとも週1回は作業場などの見回りを行い、労働衛生の視点から様々な点をチェックします。
その際、設備や作業方法または衛生状態に何らかの健康・安全を害するリスクがあるときは、改善するための対策を講じる必要があります。
このような衛生管理者の取り組みは、従業員の労働時の安全確保や病気の早期発見に繋がります。
事故や病気による退職や人員不足といった、経営面での問題も解消できるという特徴があります。
衛生管理者第1種と第2種の違い
衛生管理者資格には、第1種と第2種の2種類が存在しますが、一番大きな違いは有害業務に対応できるかできないかという点です。
有害業務とは、化学物質の製造・取扱業務や放射線、工事現場など粉じんの中で行う業務(粉じん作業)が挙げられます。
第1種では、有害業務を含む全ての業種で対応が可能ですが、第2種では有害業務に関係ない事業所に限定して対応が可能となります。
具体的には、化学物質を取り扱う重化学工業、現場工事を行う建設業の事務所が、第1種衛生管理者のみの対象事業所となります。
一方、保険業や金融業など営業やデスクワークを主とする事業所が、第2種衛生管理者の対象事業所の具体例です。
衛生管理者はなぜ転職に有利なのか
働く人々の健康・安全を守る衛生管理者の資格ですが、転職の際に持っていると有利となる資格の1つでもあります。
その理由を以下で解説していきます。
転職市場における衛生管理者のニーズが高い
1つ目の理由は、衛生管理者の資格は転職市場におけるニーズが高いという点です。
先述の通り、常時50人以上の労働者を使用する事業所では、必ず衛生管理者を選任する義務があると法律で定められています。
そのため、一定規模の全ての企業は、衛生管理者の資格を取得している人材を常に必要としています。
金融業などのデスクワークが主体となる企業から、製造業・建設業のような現場が主体となる企業まで、多岐に渡ります。
衛生管理者の資格を取得することで、転職・就職の際に幅広い分野の企業で活躍できる機会が増えるというメリットがあります。
また、事業所の規模によって選任する衛生管理者の人数は以下のように異なります。
事業所の規模(常時使用する労働者数) | 衛生管理者の数 |
50人以上200人以下 | 1人 |
200人を超え500人以下 | 2人 |
500人を超え1,000人以下 | 3人 |
1,000人を超え2,000人以下 | 4人 |
2,000人を越え3,000人以下 | 5人 |
3,000人を超える場合 | 6人 |
出典:厚生労働省
上記の表のように、事業所の規模が3000人を超える場合は、最大6名の衛生管理者を選任する義務が生じます。
事業所の規模が大きければ大きいほど、多くの衛生管理者を選任する必要があります。
そのため、競争率の高い大企業への転職の場合でも、衛生管理者の資格が自身の強みとなる可能性があります。
また、欠員が出ている場合には必ず補充しなければならないため、安定的に求人がある点も魅力の1つです。
このように、企業における衛生管理者のニーズは継続して高く、大企業であればあるほど必要とする衛生管理者の数は多くなります。
衛生管理者の資格を取得していることは転職市場における大きなアピールポイントとなるのです。
国家試験の難易度は高くない
国家試験と聞くと、敷居が高い、試験が難しいという印象を持つかもしれませんが、必ずしもそういうわけではありません。
国家試験を主催する公益財団法人安全衛生技術試験協会によると、令和元年の合格率は第1種衛生管理者が46.8%、第2種衛生管理者が55.2%となっています。
同じく国家資格である労働・社会保険の専門家である社会保険労務士の国家試験の合格率は、令和元年度は6.6%となっています。
同じ国家資格である社会保険労務士の合格率と比較すると、衛生管理者は比較的合格しやすい資格であるということがわかります。
その理由は、衛生管理者は企業の運営において必要な資格であり、「落とす試験ではなく、合格させる試験」だからです。
国家試験に合格するためには試験勉強は必要不可欠ですが、働きながら、あるいは転職活動と平行して取り組んでも合格は可能です。
参考書や通信講座などの教材も充実しており、自分のライフスタイルにあった勉強方法を選択することもできます。
このように、衛生管理者は国家資格の中では比較的取得しやすい資格であると言えます。
また地域によって異なりますが、衛生管理者の国家試験は毎月1〜5回程度開催されています。
試験回数が多い点も、衛生管理者を目指す人々にとって挑戦しやすいメリットの1つとなっています。
性別・年齢問わず取得できる資格である
3つ目の理由は、衛生管理者の資格は、最終学歴・実務経験の長さを満たしていれば、性別・年齢を問わず取得することができるという点です。
また合格後は、資格の有効期限はなく、定期的な更新手続きやレポートの提出等も必要ありません。
1度国家試験に合格すれば、生涯において衛生管理者の資格を生かすことができます。
企業によっては資格手当の支給・昇進できるチャンスがある
4つ目の理由は、衛生管理者資格を取得することにより、企業によっては資格手当の支給や昇進できるチャンスを手に入れることができるという点です。
衛生管理者は企業の運営に欠かせない資格であるため、資格手当を支給する企業もあります。
また、管理職に就く場合など、昇進の際に衛生管理者の資格を取得することを義務付けるケースも存在します。
衛生管理者の資格を取得することで、給料のアップや、管理職への昇進など仕事におけるキャリアアップができる可能性がより高くなります。
転職時も同様で、衛生管理者の資格を持っていると企業から即戦力として求められる可能性が高くなります。
転職を有利にするなら第1種がおすすめ
「衛生管理者の資格とは」でも解説した通り、衛生管理者は第1種と第2種の2種類に分類されます。
第1種と第2種のどちらを取得するべきか悩むかもしれませんが、転職を検討しているならば、第1種を取得することをおすすめします。
なぜなら、第1種は第2種と異なり、有害業務を含む全ての業種で対応可能となるためです。
また国家試験の合格率も、第1種と第2種ではそれぞれ46.8%、55.2%と大きな差はありません。
ただし、第1種では有害業務に関する試験内容も範囲に含まれるため、試験範囲は第2種の試験内容よりも広範囲に渡ります。
しかし第1種を取得すると業種を問わず転職先を選択するできるため、転職に有利に働くことが予想されます。
衛生管理者の資格を取得するためには
衛生管理者は第1種・第2種ともに国家資格であり、受験資格を満たした上で国家試験に合格する必要があります。
衛生管理者試験は、地域によって異なりますが、毎月1〜5回程度全国7ヶ所にある安全衛生技術センターで開催されています。
受験費用は、第1種・第2種ともに6,800円です。
必要な受験資格と、試験内容について以下で解説していきます。
衛生管理者に必要な受験資格
衛生管理者の受験資格は、以下の通り最終学歴と労働衛生の実務経験によって決まります。
最終学歴 | 労働衛生の実務経験 |
大学 | 実務経験1年以上 |
短期大学 | 実務経験1年以上 |
高等専門学校 | 実務経験1年以上 |
高等学校 | 3年 |
その他 | 10年 |
出典:公益財団法人安全衛生技術試験協会
上記以外の学歴や実務経験も認められる場合もあるため、詳細については労働衛生技術協会の公式サイトをご覧ください。
例外として、保健師・薬剤師の国家資格を取得している人は申請のみで衛生管理者としての免許を受けることが可能です。
また労働衛生の実務経験とは、以下の13種類の業務が含まれます。
- 健康診断実施に必要な事項又は結果の処理の業務
- 作業環境の測定等作業環境の衛生上の調査の業務
- 作業条件、施設等の衛生上の改善の業務
- 衛生教育の企画、実施等に関する業務
- 労働衛生保護具、救急用具等の点検及び整備の業務
- 労働衛生統計の作成に関する業務
- 看護師又は准看護師の業務
- 労働衛生関係の作業主任者としての職務
- 労働衛生関係の試験研究機関における労働衛生関係の試験研究に従事
- 自衛隊の衛生担当者、衛生隊員の業務
- 保健衛生に関する業務
- 保健所職員のうち、試験、研究に従事する者等の業務
- 建築物環境衛生管理技術者の業務
一般的な事例を具体的に紹介すると、「会社で定期健康診断の手伝いをする」、「事業所内の施設・設備の清掃を行う」といった業務内容も、労働衛生の実務経験にあたります。
実務経験の年数を証明するためには、上記の実務経験に該当する項目について、事業所代表者(社長・人事部長等)に依頼し、事業者証明書を提出する必要があります。
最終学歴については、卒業証明書等を提出すれば問題ありません。
衛生管理者の試験内容
衛生管理者の試験内容は、第1種・第2種とも労働衛生・関係法令・労働生理の3分野に分かれています。
だたし、第1種では有害業務に関する試験内容も範囲に含まれるため、第1種試験の方が試験範囲は広範囲に渡ります。
試験時間は3時間、出題形式は5肢択一のマークシート方式です。
衛生管理者試験に合格するためには、各分野の得点が40%以上、かつ全科目の合計が60%以上であれば合格となります。
まとめ
本記事では、衛生管理者について、衛生管理者の資格が転職に有利な理由について解説しました。
衛生管理者は、企業の組織の一員として、従業員の労働条件・労働環境の改善や、健康維持を目的とする業務を担当します。
常時50人以上を使用する事業所は、事業所の規模に合わせて、衛生管理者を選任することが法律で定められています。
そのため、衛生管理者の資格はほとんどの企業で求められる需要の高い資格となっています。
衛生管理者は、転職市場におけるニーズが高く、比較的合格しやすい資格であることから、転職を検討している方に取得してほしい国家資格の1つです。
衛生管理者は第1種・第2種の2種類に分類されますが、どの業種にも対応できる第1級衛生管理者を取得するのがおすすめです。
受験資格を満たしていれば、性別や年齢問わず受験することができ、合格すれば生涯にわたって衛生管理者の資格を生かして働くことが可能です。
衛生管理者は、企業の組織の一員として、働く人々の安全と健康を守るというモチベーションを持って職務を遂行できるやりがいのある仕事です。
転職活動で即戦力であることをアピールできるスキルとして、自己のスキルアップ・キャリアアップを目的として、衛生管理者の資格を取得してみてはいかがでしょうか。
その他の資格については下記の記事で詳しく解説しています。
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