日本では労働者が健全に働けるように、労働時間や最低賃金などを定めた労働基準法など、さまざまな法律が存在します。
そのため、12時間労働などの長時間の労働を長く続けると、労働基準法に違反する場合もあるため、気をつけなければなりません。
そこで今回は、労働基準法や12時間労働について、さらには長時間労働の生活から抜け出すためにはどうすればよいのかなどについて、詳しく解説します。
12時間労働は労働基準法違反?
ここでは、労働基準法に定められている内容について詳しく見ていきます。
労働基準法32条によると
労働基準法第32条2によると、労働者が働く時間は休憩時間を除き8時間となっており、一週間につき40時間を超えてはいけないと記されています。
しかし、実は会社側が事前に届け出をすれば、12時間労働は必ずしも違反ではありません。
労働基準法の範囲を超えるときは36協定に基づく
36協定とは、法定労働時間を超える労働をさせる場合に、あらかじめ「時間外・休日労働に関する協定届」を労働基準監督署へ届け出する制度です。
この届け出を提出しない場合は労働基準法に違反してしまうため、雇用する側は気を付けなければいけません。
ただし、36協定の届け出を提出したからといって、もちろん何時間でも際限なく残業できるというわけではありません。
労働時間の上限は、一日の残業時間は6時間まで、一か月は45時間までと決められています。
12時間労働が違法と認められるパターン
12時間労働では、次のような場合に当てはまると違反と見なされます。
休憩時間が少ない
6時間以上8時間未満の勤務の場合は45分、8時間以上の勤務の場合は必ず1時間以上の休憩を取らなければならないと労働基準法では定められています。
ちなみに12時間労働の場合は、休憩時間は1時間以上と決められており、それ以下になると違反となります。
正当な残業代が支払われない
残業しているにも関わらず残業代をきちんと支払われない場合や、みなし残業代として本来支払われるべき残業代よりも金額が低い場合は、労働基準法違反になります。
みなし残業とは、賃金にあらかじめ一定時間分の残業代を組み入れておく制度のことで、固定残業制度とも言われています。
なお、定められた時間よりも長く残業を行った場合には、その分の残業代を追加で支払われなければなりません。
また、管理職は残業代が出ないことが多いと言われていますが、役職手当があるからといって残業代が支払われないと、違反である可能性が十分にあります。
12時間労働が常態化している仕事の例
ここでは、長時間労働になることが多い職業について詳しく見てみましょう。
医師や看護師
医師の携わる業務は人の命にかかわる大変重要な職務です。
そのため、決められた仕事だけではなく、受け持ちの患者の容態急変時や救急患者の対応もしなければならず、長時間労働になりがちです。
また、他の業種と比べて高額の給与が支払われることから、医療業界ではサービス残業は珍しくはないと言われています。
一方、看護師は一般的にシフト制で勤務を行うため、労働時間はしっかり管理されていると思われがちです。
しかし、看護師も当然患者の急変対応などで長時間労働になることがあります。
また、日勤だけではなく準夜勤や夜勤もあるため、医師同様に労働環境は厳しいと言えるでしょう。
介護職
離職率が高く、慢性的な人手不足に陥っている介護職も労働時間の長い職種のひとつです。
看護師と同様にシフト制で夜勤もあり、その過酷な労働環境に加え、それに見合わないと言われている給料の金額が離職者の増加につながっています。
飲食店従業員
飲食店の多くは平日に交代で休むことが多く、また人件費削減のために必要最低限の人数しかいないとどうしても負担が大きくなり、時間外労働も増えることになります。
工場労働者
工場で夜勤などがある場合、2交代制は12時間労働、3交代制は8時間労働となります。
また、工場で任される仕事内容によっては、基本的に立ちっぱなしで作業をしたり、重い荷物を運んだりするなど、長時間労働だけでなく、体力的にも辛い場面が多くあるでしょう。
12時間労働などの長時間労働が発生する原因
ここでは、どうして労働時間が長くなってしまうのか、その原因について具体的に見ていきます。
慢性的な人手不足
現在は高齢化社会の影響による労働人口の減少や、最低賃金の上昇などにより、業務量に見合うだけの人員を雇用できない状態が続いています。
そのため、慢性的な人手不足に陥っている会社が多く存在していると言われています。
特に製造業や飲食業などの人手不足は顕著ですが、他のどの職種においても人手が足りない傾向が見られます。
その結果、一人当たりの労働時間が長くなってしまい、労働基準法違反ギリギリの現場も数多くあるとされています。
このように一人あたりの業務量が日常的に多く、長時間労働の期間が長引くと、その労働環境下で働く労働者の疲労が蓄積し、さらに離職者が増えることになります。
仕事の繁忙期と閑散期の差が大きい
業種によっては繁忙期と閑散期の差が大きい現場があります。
そのため、閑散期には人員が足りていても、繁忙期には少ない人数で大量の業務をこなさなければいけないケースがあり、12時間労働などの長時間労働につながっています。
上司の労働者に対する意識の低さやマネジメント能力不足
会社において日々の業務内容や労働者の勤務時間、休日などの管理を行っているのが上司や職場のリーダーなどです。
そのため、仕事の指示に一貫性が欠けていたり、無理な量の業務を強いるなど上司にマネジメント能力が不足していたりすると、12時間労働や残業を引き起こす原因となります。
また、長時間労働を見て見ぬふりをしたり、何らかの改善策を講じなかったりした場合も、労働者に長時間労働が課せられる原因になります。
このような職場では、管理者の労働者への気遣いや問題点の提起など、長時間労働にならない対策を講じる必要があるでしょう。
主体的残業が多い
労働者の中には、仕事を完璧にこなしたい、今日の分が終わるまでは帰りたくない、残業することで上司の評価を上げたいといった気持ちから、自主的に残業を行う人がいます。
仕事熱心なのは評価されるべきですが、長期間にわたり12時間労働が続くと、体調を崩すなど心身にも悪影響を及ぼす可能性があるため、無理は禁物です。
12時間労働を続けていると起こる弊害
ここでは、長期間にわたり12時間労働を続けていると起こる可能性のあるさまざまな影響について詳しく見ていきます。
睡眠不足や疲労の蓄積による体調不良
夜勤などが組まれている職場で長時間労働を続けていると、どうしても昼夜が逆転の生活になってしまうため、体内時計が狂って生活リズムの乱れてしまいます。
そのため食生活が不規則になり、栄養バランスが崩れたり、睡眠不足になったりして体調不良を起こすことが考えられます。
体調不良のまま仕事を続けていると、居眠りや注意力の欠如などによって事故につながる可能性があります。
また、過度の疲労は、脳梗塞やくも膜下出血、心筋梗塞などを発症するリスクを高めるため注意しなければなりません。
体調不良については下記の記事で詳しく解説しています。
うつ病発症のリスクも
連日の12時間労働など慢性的な長時間労働では、自分の限界に気が付かないまま精神的に追い詰められ、うつ病などの心の病になるケースがあります。
そのような精神疾患を発症しないためにも、心身ともにしっかり休息を取る必要があります。
一度うつ病などを発症すると、職場に復帰するまでには半年間から一年以上かかるケースが多く、回復までにかなり時間を要すると言われています。
また、長時間労働や休日出勤、残業の増加などによるメンタルの不調は、一人でストレスを抱えることになり、最悪の場合、自殺につながる可能性もあります。
そのような事態を回避するため、現在国では、自殺防止対策のひとつとしてストレスチェック制度を推進しています。
ストレスチェックをすることで労働者一人ひとりのストレスを把握し、その結果に応じて医師による指導や職場環境の改善が行われます。
しかし、ストレスチェック制度はまだまだ一般的に普及しておらず、多くの会社で採用されるには時間がかかると言えるでしょう。
最悪の場合、過労死の可能性も
日本では過労死ラインは一ヶ月残業80時間と定められており、例えば一ヶ月に20日間働く場合には、一日4時間の残業で12時間労働となります。
きちんと休日や休憩時間を設けていれば、月に1、2回ほどであれば12時間労働は問題ないとも言えますが、毎日続けるのは最悪の場合、体を壊して過労死する可能性があります。
現在働いている会社が日常的に12時間労働を強いている場合には、健康被害が出る前に転職することを選択肢のひとつとして考えましょう。
モチベーションが下がることによる生産性の低下
長時間労働が常態化している会社では、早く帰りにくいといった空気があるため、従業員に疲労が蓄積されます。
そのため、労働時間が長いわりには生産性があまり上がっていないことがあります。
また、長時間労働が続くと、疲労の蓄積や睡眠不足、ストレスの増加などにより、従業員の仕事へのモチベーションが低下することが考えられます。
その結果、業務効率が落ちてしまい、むしろ生産性の低下を引き起こしてしまいます。
12時間労働から抜け出したいと思ったときにすべきこと
ここでは、12時間労働などの無理な働き方を変えたいと思ったときにすべきことについて詳しく見ていきます。
労働基準監督署に相談する
厚生労働省が管轄する労働基準監督署では、労働時間や賃金、不当解雇など、労働条件に関するさまざまな相談を受付けています。
ただし、12時間労働などの長時間労働の問題を具体的に相談するには、契約書や就業規則、タイムカード、給料明細などを用意する必要があります。
また、体調不良によって体調を崩し、病院を受診した場合は、医師の診断書などを準備しておくといいでしょう。
総合労働相談センターなどに相談する
総合労働相談センターとは、労働局や労働基準監督署などに設置されている、労働者のための相談窓口です。
不当な解雇や雇い止め、違反の可能性のある長時間労働の他にも、パワハラや嫌がらせなど、さまざまな労働環境でのトラブルに関する相談を受付けています。
面談だけでなく電話でも相談に応じており、相談料は無料です。
また、NPO法人が運営する民間の労働相談センターでは、面談と電話の他にメールでも相談できる上、労働関係の問題に詳しい専門スタッフが親身になって相談にのってくれます。
ホワイト企業への転職を考える
12時間労働や休日出勤、残業が多い、また退職者が多く見られる会社のことをブラック企業と呼びます。
一方、従業員への待遇や福利厚生が充実しており、残業が少なく働きやすい環境にある会社のことをホワイト企業と言います。
最近は多くの転職サイトがありますが、中でも注目されているのが転職エージェントや人材紹介会社です。
転職エージェントや人材紹介会社では、ただ単に求人情報を紹介するだけでなく、転職を検討している人と採用を考えている企業とのマッチングを行っています。
転職コンサルタントが労働条件や給与面など、条件に合う企業を見つけてくれるため、スムーズに転職活動を行えるでしょう。
年齢・職種別のおすすめ転職エージェントは下記の記事で詳しく解説しています。
ぜひご覧ください。
まとめ
日本では労働基準法によって、労働者の勤務時間や残業時間などの上限が定められていますが、12時間労働は、労働基準法においては決して違反ではありません。
特に医師や看護師、介護職、工場労働者などは、12時間労働のような長時間勤務が多いとされています。
しかし、無理な長時間勤務を長く続けていると、健康への悪影響をはじめ、さまざまなリスクが生じる可能性があります。
また、長時間勤務によって心身ともに疲弊すると、うつ病などの精神疾患にかかる可能性があるため気をつけなければいけません。
今の労働環境に限界を感じている人は、早めに労働基準監督署や総合労働相談センターなどに相談することをおすすめします。
会社側の事情などにより、どうしても長時間労働になってしまうのなら、転職も視野に入れてきちんと自分自身の体や将来について考えた方がいいでしょう。
今の職場に不満がある人は、これを機会に働き方について見直してみてはいかがでしょうか。
また、年代別に転職成功のポイントは下記の記事で詳しく解説しています。
こちらもぜひご覧ください。